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大阪高等裁判所 平成2年(ネ)2083号 判決

主文

一  第一審被告らの控訴に基づき、原判決中、第一審被告ら敗訴の部分を取り消す。

二  右部分につき、第一審原告の第一審被告らに対する請求をいずれも棄却する。

三  第一審原告の控訴をいずれも棄却する。

四  第一審原告の当審における新請求を棄却する。

五  訴訟費用は、第一、二審を通じ第一審原告の負担とする。

事実

第一  申立て

(第一審原告)

一  原判決主文1、2を次のとおり変更する。

第一審被告らは第一審原告に対し、第一審原告の第一審被告会社に対する出資持分が二〇〇口であることを確認する。

二  第一審被告会社は第一審原告に対し、第一審原告が第一審被告会社の代表権のある取締役であることを確認する(原審第二事件請求を当審において上記のとおり交換的変更)。

三  第一審被告らの控訴を棄却する。

四  訴訟費用は、第一、二審とも第一審被告らの負担とする。

(第一審被告ら)

主文同旨

第二  主張

当事者双方の主張は、次のとおり付加、訂正等するほか、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

一  原判決二枚目裏一二行目「原告」の前に「(1)」を付加し、同じ行の「訴外株式会社宝盛館書店」を「訴外株式会社寶盛館書店(当時の代表者は田〓謙二、後に「株式会社宝盛館本店」と商号変更、以下「訴外会社」ともいう。)」と改め、同末行目「販売」の次に「の個人営」を、同三枚目表一行目と二行目の間に次のとおり、それぞれ付加する。

「(2) 第一審原告は、昭和二三年ころ、右芦屋寶盛館の顧客である元協和銀行京都支店長の浜田昇蔵(以下「浜田」という。)より、一〇万円を出資するから一対二の割合で同館の共同経営をしたいとの申入があったため、父であり訴外会社の代表者であった田〓謙二(以下「謙二」という。)に名義を借り、第一審原告、謙二及び浜田三名による芦屋寶盛館の経営を目的とする組合契約を締結した。その後、浜田は病気のため、出資の払戻しを受けて組合から脱退し、同人の後任組合員として上野修(以下「上野」という。)が組合に加入したが、同人には名義を借りただけで、出資を要請したことはない。かくて、浜田脱退後、芦屋寶盛館の営業は、形式的には組合によるものであるが、実質的には第一審原告が一〇〇パーセント出資した第一審原告の個人営業となった。」

二  同二行目「営業」を「組合」と改め、同六行目「(評価二四万六四八〇円)」を削除し、同七行目「(評価」から同八行目「に対し、」までを「(以下「訴外持分」ともいう。)以上合計価格三〇万円を現物出資したことに基づき、被告会社(資本の総額三〇万円、出資一口の金額一〇〇〇円)に対し、」と、同裏六行目「借して」を「貸して」とそれぞれ改める。

三  同裏一〇行目と一一行目の間に次のとおり付加する。

「4(1) 第一審原告は、後記第一審被告ら主張の裁判上の自白の成立を争うが、仮に右自白が成立したとしても、第一審原告は第一審被告ら承認のもとに右自白を有効に撤回したものであり、たとえ第一審被告らの承認がなかったとしても、右自白は真実に反し、錯誤によるものであるから、撤回は有効である。」

四  同一一行目「4」を削除し、同じ行の「仮りに」の前に「(2)」を付加し、同四枚目表三行目「5」を削除し、同六行目「友子」の前に「第一審被告抜井の妻である」を付加したうえ、同三行目から同裏三行目までを同七枚目裏二行目末尾に移記し、同四枚目裏四行目「6」を「5」と、同九行目「7」を「6」とそれぞれ改める。

五  同末行目「1の事実は不知。」を「1(1)の事実中、訴外会社が芦屋支店を有し、書籍販売業を営んでいたことは認めるが、その余は否認する。第一審原告主張の営業譲渡契約(甲一)は実体を伴わない架空のものである。謙二は、単に第一審原告に訴外会社芦屋支店の経営を委任したにすぎず、右営業譲渡契約締結後も、謙二が芦屋(支)店のオーナーだったのである。」と改め、同じ行と同五枚目表一行目との間に次のとおり付加する。

「 同1(2)の事実中、芦屋寶盛館組合の成立及び浜田が現実的出資に基づく組合員であったことは認めるが、その余は否認する。謙二も、芦屋(支)店の営業資産等を出資した実質的組合員であったもので、むしろ、第一審原告こそ、なんら実質的な出資を行っておらず、ただ経営に従事していることで、組合員にして貰ったというのが実情である。

2(1) 請求原因2(1)ないし(3)に関し、第一審原告は、当初、第一審被告会社は第一審原告、上野及び謙二各一〇〇口の出資持分により設立され、昭和三二年三月一七日、上野が第一審被告抜井に出資持分全口数を譲渡した結果、出資口数の保有状況は、第一審原告、謙二及び第一審被告抜井各一〇〇口となったことを先行自白し、第一審被告らはこれを援用したので、裁判上の自白が成立した。ところが、その後第一審原告は、原審第一事件請求原因2(1)ないし(3)のように主張して右自白を撤回したが、右自白の撤回は、真実に反するのみならず、後記遺産分割協議等における第一審原告の言動に矛盾するものであって、禁反言の法理ないし信義則に照らし許されない。」

六  同一行目の「2」を削除し、同じ行の「同2(1)」の前に「(2)」を付加し、同じ行の「年月日」を削除し、同二行目「三名である」を「三名であり、芦屋寶盛館組合を組織変更して有限会社としたものである」と、七行目の「出資持分」を「訴外持分」とそれぞれ改め、同八行目末尾に「従って、第一審被告会社に対する謙二及び上野の社員持分も単に名義だけのものではなく、第一審原告のそれと同様、実質的なものであった。」を付加し、同一一行目の「同4の事実は否認する。」を「同4の事実中、謙二の死亡及び第一審原告らの相続の事実は認めるが、その余は否認する。」と改め、同一二行目を削除し、同末行目の各「6」を各「5」と、同じ行の「7」を「6」とそれぞれ改める。

七  同六枚目裏一〇行目「はじめて」の次に「右贈与の不存在及び」を、同七枚目表二行目「譲渡した」の次に「(以下「本件出資持分譲渡行為」ともいう。)」を、同裏一行目と二行目の間に「また、第一審被告ら主張の昭和五九年二月二三日午後の社員総会は、手続的にも実態においても、社員総会と評価できるものではない。」とそれぞれ付加する。

八  同一一枚目裏一行目「同時に」の次に「取締役及び」を、同三行目「代表取締役」の次に「のみ」をそれぞれ付加し、同四行目「経由されている。」を「経由され、第一審被告会社は、第一審原告が第一審被告会社の代表取締役を辞任し、または第一審被告抜井が代表取締役に選任されたことにより、当然その地位を失ったと主張している。」と改める。

九  同五行目、六行目を次のとおり改める。

「3 しかし、第一審原告は、第一審被告会社の代表取締役を辞任したことも解任されたこともない。また、有限会社においては、本来取締役各自が代表権を有するのであるから、取締役二名、うち代表取締役一名の有限会社において、更に代表権のない取締役が代表取締役に選任された場合、取締役全員が代表権を有することになるので、さきになされた「代表取締役の氏名」の登記を抹消し、取締役全員が代表権のある取締役となるべきものである。従って、本件において、第一審原告のほか第一審被告抜井も代表取締役に選任されたことにより、第一審原告は(第一審被告抜井とともに)代表権のある取締役となったものである。」

一〇  同七行目「代表取締役」を「の代表権のある取締役」と改め、同一二枚目表一一行目「となる。」の次に「他方、第一審被告会社においては、その定款上、その第八条更には第九条において「代表取締役」制度がとられているから、第一審原告及び第一審被告抜井がともに「代表取締役」でない単なる「代表権ある取締役」となり「代表取締役」制度をとらないことは、定款違反の事態を招来する。」を付加し、同裏一行目を「を退任し、「代表権なき取締役」となったとすべきものである。」と、同一三枚目表三行目「今日」を「その訴状(原審第二事件)提出」とそれぞれ改め、同九行目末尾に「なお、右書面をもって、書面による社員総会の決議があるとすることも、総社員の同意がない以上許されない。また、第一審原告が第一審被告会社の代表取締役を辞任する旨の登記がなされているが、これは、第一審被告抜井が第一審原告の辞任届を偽装して登記したことによるものである。」を付加する。

理由

第一  第一審原告の出資持分確認請求(原審第一事件)について

一  第一審被告会社が昭和二七年三月一三日設立されたことは当事者間に争いがない。

二  次に、第一審原告の自白の成立とその撤回について判断する。

本件記録によれば、第一審原告は、原審第一事件の昭和五九年五月一七日付訴状において、第一審被告会社は、第一審原告、上野、謙二各一〇〇口の出資持分により設立されたこと及び昭和三二年三月一七日、上野が第一審被告抜井に出資持分を譲渡した結果、当時の第一審被告会社の出資口数保有状況は、第一審原告、謙二、第一審被告抜井各一〇〇口となっていたことを主張(以下「第一審原告の当初主張」という。)したうえ、謙二の死亡による相続を原因として同人の右持分の二分の一の五〇口を第一審原告が取得したとして、第一審被告らを相手方として、第一審原告の出資持分は一五〇口である旨の確認を求めていたところ、第一審被告らは、昭和五九年六月二八日付答弁書においては、第一審原告の請求原因事実を否認したものの、同年九月五日付準備書面において、第一審原告の当初主張の事実を認める旨陳述するとともに、右事実を前提として、謙二が生前その出資持分一〇〇口を、友子ほか三名に二五口ずつ贈与したこと及び第一審原告が昭和五九年二月二三日、その出資持分一〇〇口を第一審被告抜井に譲渡したことを抗弁として主張し、もって、現在、第一審原告は出資持分を有しない旨を主張した。ところが、第一審原告は、昭和五九年一〇月六日付準備書面において、当初主張を翻し、第一審被告会社は第一審原告が全額出資して設立したものであり、第一審原告の出資持分は第一審被告会社設立当時三〇〇口全口であったところ、昭和三二年三月一七日、第一審被告抜井がうち上野名義の一〇〇口を譲受けたので、二〇〇口となったとの主張(以下「第一審原告の新主張」という。)をなし、次いで昭和六〇年七月二四日付準備書面において、従前の請求(一五〇口の出資持分確認請求)を予備的請求とし、新たに主位的請求として二〇〇口の出資持分の確認を求めるとともに、主位的請求原因として第一審原告の新主張を、予備的請求原因として第一審原告の当初主張をそれぞれ主張するに至った。これに対し、第一審被告らは、昭和六〇年九月一三日付準備書面をもって、第一審原告の右同年七月二四日付準備書面による主位的、予備的各請求の棄却を求めるとともに、主位的請求原因に対する認否としては、前記昭和五九年九月五日付準備書面におけると同様の主張をなすとともに、同主張に反する点については争う旨答弁したこと、更に、第一審被告らは、当審にいたって、平成三年二月一二日付準備書面において「第一審被告会社設立時において、謙二名義の持分が実質的にも同人に帰属していたことについては、原審において自白が成立していた」旨、同年五月一五日付準備書面において「自白の成立を否定する第一審原告の主張は失当である」旨、同年九月三〇日付準備書面において「自白は真実に反し錯誤に基づくものではないから、その撤回は無効である」旨、同四年四月三〇日付準備書面において「謙二名義の持分の帰属を否定することは、遺産分割協議等における第一審原告の行動に矛盾するものであり、禁反言の法理ないし信義則に照らして許されない。」旨、それぞれ主張し、以上の各準備書面はいずれも時間的順序に従い遅滞なく原審及び当審の口頭弁論期日において陳述されたことが明らかである。

右事実によれば、第一審原告の当初主張については、第一審被告らの昭和五九年九月五日付準備書面が陳述された時点において、第一審被告らにより先行自白の援用がなされ、裁判上の自白が成立したが、右自白は、第一審原告の昭和五九年一〇月六日付準備書面における新主張によって撤回され、これに対し、第一審被告らは、原審において右主張事実を争い、否認したものの、自白の撤回については積極的に異議を述べることがないまま当審にいたったものということができる。そして、当審における第一審被告らの前記主張が第一審原告の自白の撤回に対する異議であると解されるとしても、既に時機を失したものであり、右自白の撤回は、第一審被告らの責問権の喪失により、真実に反し錯誤に基づくものであるか否かを問うまでもなく、有効と解するのが相当である。

三  そこで、次に、第一審原告の新主張について検討する。

1  第一審原告は、第一審被告会社設立に際して第一審原告が全額出資したものであり、謙二や上野はなんら出資しておらず、定款上の同人らの出資持分は名義だけのものであると主張する(第一審原告の主張)。

2  第一審被告会社が昭和二七年三月一三日設立されたこと、原審第一事件請求原因2(2)の事実、訴外会社(代表者謙二)が芦屋支店を有し書籍販売業を営んでいたこと、昭和二三年ころ、芦屋支店の営業に関し芦屋寶盛館組合が結成されたこと、浜田が右組合の実質的出資に基づく組合員であったこと、昭和三二年三月一七日、上野名義の第一審被告会社出資持分一〇〇口を第一審被告抜井が取得し、同日以降、同被告が右持分一〇〇口を実質的にも有していること、以上の事実は当事者間に争いがなく、右事実のほか、成立に争いない甲第二号証、第一七号証、乙第一二号証(原本の存在及び成立に争いのない甲第四号証)、乙第一三号証、第一四号証、第二〇号証、第二三号証(甲第二二号証)、第二七ないし第二九号証、第一審原告本人尋問の結果(原審第一回、当審)によって成立が認められる甲第一号証(同じく原本の存在も認められる甲第六号証)、証人友子の証言(当審)によって成立が認められる甲第八号証、第一審原告本人尋問の結果(当審)によって成立が認められる甲第九号証、証人抜井友子の証言(原、当審)、第一審原告本人尋問の結果(原審第一、二回及び当審の各一部)、第一審被告抜井兼第一審被告会社代表者本人尋問の結果(以下「第一審被告抜井茂夫本人尋問の結果」という。)並びに弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実を認めることができる。

(一) 訴外会社(代表者謙二)は、御影所在の本店のほか、芦屋市大桝町二一番八所在の借家において芦屋支店を有し、書籍販売業を営む、実質上謙二のオーナー会社であり、謙二には長男の第一審原告、長女友子の二人の子供があった。第一審原告は昭和二一年復員し、謙二に学資を出して貰って同年一月より神戸大学に復学したものの、同年三月、謙二より、訴外会社芦屋支店の経営を任すから支店長としてではなく、自分の店としてやってほしいと依頼され、これを承諾し、同年五月二五日、訴外会社より、在庫商品一万九六〇五円、什器備品一四八六円七九銭のほか、売掛債権、借家権等一切を含む芦屋支店の営業を代金一万五七三八円七一銭で譲受け、訴外会社において、同日の株主総会で芦屋支店の廃止を決議し、第一審原告は「芦屋寶盛館」の商号で個人での営業を開始したが、当時芦屋支店の損益の状況は二四六三円四六銭の損失であったものの、右譲渡代金額は支店の本店に対する債務一万八二〇二円三七銭から右損金を差引いた額にほぼ見合う額であり、在庫商品一万九六〇五円にも満たない低額のものであって、右営業譲渡は殆ど無償に等しいものであったということができるのみならず、芦屋寶盛館の経営の独立も第一審原告の責任感を高めるためのものであり、実質的にはその経営は謙二の信用に依存し、同人が依然そのオーナーであった。

(二) 昭和二三年に至り、第一審原告は、元協和銀行京都支店長の浜田より一〇万円の出資を受けて同人を芦屋寶盛館の共同経営者に迎えることになり、同時に、謙二もこれに加わり、三人で民法上の組合である「芦屋寶盛館組合」を結成したが、その際、謙二及び第一審原告は、特に改めて金銭を出資することはなく、それまでの芦屋寶盛館の営業を出資し、組合財産に対する共有持分は三名平等とし、配当割合も平等とした。

ところが、昭和二五年一月五日、浜田が右組合を脱退したので、同人に出資金一〇万円を払戻し、後任に訴外会社の古い従業員であった上野を加入させたが、同人には出資を求めなかったが、持分及び配当割合はいずれも従前のとおり三名平等とした。

(三) 昭和二六年四月、芦屋寶盛館組合は、本件土地を坪八〇〇〇円で購入し、上野名義に所有権移転登記を経由し、また、訴外持分を取得し、これらはいずれも芦屋寶盛館組合の組合財産となった。

(四) 昭和二七年三月一三日、芦屋寶盛館組合は、資本の総額三〇万円、出資一口の金額一〇〇〇円とする有限会社に組織変更することになり、謙二、第一審原告、上野の三名は、組合財産である本件土地及び訴外持分の合計価額を三〇万円と評価のうえ、これを現物出資して第一審被告会社を設立し、右三名は各一〇〇口ずつの出資口数を取得し、第一審原告が取締役及び代表取締役に、上野が取締役に、謙二が監査役にそれぞれ就任した。

(五) 昭和二八年三月一二日、第一審被告会社は本件土地上に建物を建築し、第一審被告会社名義に所有権登記を経由し、以後同建物で書籍販売業を継続するようになった。

(六) 謙二は、かねてより、将来は訴外会社を第一審原告に、第一審被告会社を第一審原告の妹の友子に継がせたいとの意向を有していたため、親戚でもあり、かつて数年間書店経営の経験を有する第一審被告抜井を友子の配偶者に迎え、昭和二九年五月二八日友子と婚姻させた。以後、第一審被告抜井は第一審被告会社の経営にあたり、友子がこれを手伝い、他方第一審原告は、第一審被告会社から事実上手を引き、謙二とともに訴外会社の経営に専念するようになった。

3  以上認定の事実に、原審において当初成立した第一審原告の前記自白及び後記認定のとおり、昭和五九年二月二三日の社員総会において友子らの社員資格が争われなかった事実を合わせ考えれば、第一審被告会社設立当時において、原告、謙二、上野の三名が有していた出資持分は、単に名義だけのものではなく、実質的なものであったと認めるのが相当である。第一審原告本人尋問の結果(原審第一、二回、当審)のうち、右認定に反する部分は採用できず、他に右認定を動かすに足りる証拠はない。

四  原審第一事件の抗弁1、2(謙二持分一〇〇口の贈与)について判断する。

成立に争いのない乙第三号証の一、原本の存在及び成立に争いのない乙第一〇号証の一ないし三、証人抜井友子の証言(原審)によって成立が認められる乙第四ないし第六号証、第七号証の一、二、第八号証、第九号証、弁論の全趣旨によって原本の存在及び成立が認められる甲第二五号証の一、二、証人抜井友子の証言(原、当審)によれば、原審第一事件抗弁1の事実のほか、昭和五九年二月二三日午前一一時、第一審被告会社社員総会が出席社員を第一審原告(持分一〇〇口)、第一審被告抜井(同一〇〇口)及び友子(同二五口)の三名として、右友子の社員資格についてなんら争われることなく開催され、第一審原告の出資口数一〇〇口が第一審被告抜井に譲渡された後、同日午後、同社員総会第二号議案として「第一審被告抜井はその出資口数のうち七五口を友子に贈与すること及びその結果社員の出資口数の内訳けが第一審被告抜井一二五口、友子一〇〇口、抜井正博、和田濱悦子、抜井康樹各二五口となった。」旨を確認する旨の、第一審被告抜井、友子、抜井正博、和田濱悦子及び抜井康樹連名の書面による決議書(乙九)が作成されたこと並びに第一審原告と友子との遺産分割協議において謙二の出資持分は遺産に含まれないことにつき双方ともなんら異存がなかったこと、以上の事実が認められる。

右認定事実によれば、謙二持分一〇〇口は、昭和五五年一二月三〇日から昭和五六年七月二一日にかけて、友子、抜井正博、和田濱(当時は抜井姓)悦子、抜井康樹に対し、それぞれ二五口ずつ贈与されたものであり、その当時、右贈与について社員総会の承認があった事実を認めることのできる証拠はないが、右認定の事実に照らしてみれば、第一審原告は、謙二の友子らに対する持分贈与を承認していたものと推認され、結局、右贈与は、第一審被告会社社員全員の承認があり、有効なものと認めるのが相当である。第一審原告本人尋問の結果(原審第一、二回、当審)のうち、右認定に反する部分は採用できず、他に右認定を動かすに足りる証拠はない。

五  原審第一事件抗弁3(本件出資持分譲渡行為)及び同再抗弁(公序良俗違反無効)についての当裁判所の判断は、次のとおり付加等するほか、原判決理由五項及び六項(原判決一五枚目裏七行目から一八枚目裏八行目まで)に説示のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決一五枚目裏一〇行目冒頭に「前出甲第二五号証の一、二、」を、同一一行目「四、」の次に「第一一号証の一、三、四、」を、同じ行の「証人抜井友子の証言」の次に「(原審)」をそれぞれ付加し、同じ行から同一二行目の「甲第一一号証の一ないし四」を「乙第二号証の二、第一一号証の二」と改め、同じ行の「証人抜井友子」の次に「(原、当審)」を、同じ行の「各証言」の次に「、第一審原告本人尋問の結果(原審第一、二回及び当審の各一部)」をそれぞれ付加する。

2  同一六枚目表一行目を「時頃、訴外会社で鳩泰一公」と改め、同二行目「西川」の前に「その補助者」を付加し、同四行目「財産評価」を「遺産の評価及び分割方法」と改め、同末行目「こと、」の次に「第一審原告は、三和銀行の菅野氏より、友子の希望を叶えてやることが亡父への供養にもなる等の説得を受け、」を付加し、同じ行の「原告と妻が」を「妻とともに」と、同じ行の「財産」を「遺産」とそれぞれ改める。

3  同裏二行目「評価を」の次に「額面どおり」を付加し、同五行目「宝盛館本店」を「訴外会社」と改め、同六行目「同事務」から同七行目「返却し、」までを削除し、同一七枚目裏四行目「がそれぞれ」から同六行目「れば」までを削除し、同じ行の「右同日に」の次に「第一審被告抜井から第一審原告に出資持分譲渡代金一〇万円が支払われ、他方、」を、同七行目「支払われ」の前に「小切手で」を、後に「、株券も交付され」をそれぞれ付加し、同八行目「甲第一八号証、」を削除し、同九、一一行目の各「一回目」を各「原審第一回及び当審」と改め、同一八枚目表五行目「前記」の前に「仮にそうだとしても、」を、同八行目冒頭「び」の次に「出資持分譲渡代金及び」をそれぞれ付加する。

4  同裏二行目「甲第七号証」の次に「(甲第二一号証)」を、同じ行の「乙第一七号証」の次に「(乙第三八号証)」をそれぞれ付加し、同五行目「五で」を削除し、同八行目「解される」を「解され、本件出資持分譲渡行為が第一審原告の窮迫、軽率な心理に乗じた第一審被告らの不当な利益を博する行為であって、公序良俗に反し無効であるとはいえず、他にこれを肯定するに足りる証拠はない」と改める。

5  同八行目の次に行を改めて以下のとおり付加する。

「七 以上によれば、第一審原告は、当初第一審被告会社に対する出資持分一〇〇口のみを有していたものの、昭和五九年二月二三日、これを第一審被告抜井に譲渡することにより失ったものであるから、第一審原告の出資持分確認請求はすべて理由がなく、これを棄却すべきである。」

第二  第一審原告が第一審被告会社の代表権のある取締役であることの確認請求(原審第二事件を当審で交換的に変更した請求)について

一  原審第二事件請求原因1、2の事実は当事者間に争いがない。

二  同第二事件の抗弁1について判断する。

1  右一の争いない事実のほか、成立に争いない乙第一五号証(原本の存在及び成立に争いない甲第五号証)、第一審被告抜井茂夫本人尋問の結果によって成立が認められる乙第一六号証、弁論の全趣旨によって成立が認められる甲第一三号証、証人抜井友子の証言(原、当審)、第一審原告本人尋問の結果(原審第一、二回及び当審の各一部)並びに第一審被告抜井茂夫本人尋問の結果によれば、前記認定のとおり、謙二は、かねてから訴外会社を第一審原告に、第一審被告会社を友子に継がせたいとの意向を有し、昭和二九年五月二八日、友子と第一審被告抜井とを結婚させ、以後、第一審被告抜井は第一審被告会社の経営に当たり、第一審原告は第一審被告会社の経営から手を引き、謙二とともに訴外会社の経営に専念するようになったこと、昭和三二年三月一七日、第一審原告は謙二より訴外会社の全株式を額面五万円で譲受け、謙二と並んで訴外会社の代表取締役に就任(同時に訴外会社の商号が株式会社宝盛館本店と変更された。)したが、同日、第一審被告会社においては、総社員の同意のもと、上野が出資持分一〇〇口を第一審被告抜井に譲渡して退社し、取締役も辞任し、第一審被告抜井が右一〇〇口を譲受けたことを承けて、第一審被告抜井を取締役及び代表取締役に選任する旨の書面による社員総会決議がなされたこと、同月三〇日付で、原因日付を同月一七日とする第一審被告抜井の取締役及び代表取締役就任登記のほか、第一審原告の代表取締役のみ辞任する旨の登記がなされたこと、同日以降、第一審原告はそれ迄(但し、昭和二九年五月二八日以降)と同様、訴外会社の経営に専念し、第一審被告会社の経営に関与したことはないことが認められる。

2  右一及び二1の事実のほか、成立に争いない乙第一九号証によって成立が認められる乙第一八号証を総合すると、第一審原告は、昭和三二年三月一七日、訴外会社の代表取締役に就任し、かつ、第一審被告抜井が第一審被告会社の取締役及び代表取締役に就任した際、第一審被告会社の代表取締役のみを辞任したことが推認されるというべきであり、この推認に反する第一審原告本人尋問の結果(原審第一、二回及び当審)はにわかに採用できない。

三  そうすると、第一審被告らのその余の抗弁及び第一審原告の再抗弁につき判断するまでもなく、第一審原告が第一審被告会社の代表権のある取締役であることの確認を求める第一審原告の請求は理由がなくこれを棄却すべきである。

第三  結論

以上によれば、原判決中、第一審原告の原審第一事件請求を一部認容した部分は不当であり、これに関する第一審被告らの控訴は理由があるので、原判決中右部分を取り消して右部分についての第一審原告の請求をいずれも棄却し、他方、第一審原告の控訴はいずれも理由がないのでこれらを棄却し、第一審原告の当審における新請求(原審第二事件請求が交換的に変更されたもの)は理由がないのでこれを棄却し、民訴法九六条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

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